牡と牝(麀・鹿・雌・雄)
2007年8月12日 kodo | 個別ページ | コメント(0) | トラックバック(0)

これは石鼓文の第一鼓の「麀鹿」字です。
「メス・オス」という順序で並んでいます。
通常、メスとオスをならべて書くときは、メスを先にします。
レディーファーストなのです。
メスのほうが神に近いからでしょう。
上の字がメスの鹿、下の字がオスの鹿です。
牡鹿(おじか)には、とても立派な角があります。
鹿の角は牡鹿(おじか)だけに生えるもので牝鹿(めじか)にはありません。
牡鹿の角は、毎年春に自然に落ちて、すぐに新しい角が生え始めます。
数ヶ月で数十センチもある立派な角になるのです。
先日、石鼓文を学んでいる方が、下の鹿の字を、このように書いていました。

これだと「角のある牝鹿」となってしまいます。石鼓文の第一鼓の「鹿」字はふたつありますが、どちらも下部が欠損しているので、上の字につられてしまったのでしょう。他の鼓をみれば一目瞭然です。
下の字は、

と書きます。これは第十鼓の「鹿」字です。
下の字「鹿」の角は、牡鹿の立派な角なのです。
「鹿」が部首として使われるときには角は省略されます。
「匕」のかたちは、牝器の象形です。
なので上の字が「めじか」であることは疑いようがありません。
牡鹿に「匕」をつけてはいけません。
「鹿」という字は、神聖な犠牲なので、石鼓文には頻繁に出てきます。
先に下の字は「オスの鹿」(おじか)といいました。
たしかにこれは牡鹿です。
ただ、第十鼓の「鹿」の使い方をみると、この字は単独で使われています。
なので、「おじか」をあらわしているというよりは、
おじか、めじかを含めた総称として「鹿」を使っているようです。
じつは「麀鹿」、この二字で「めじか」をあらわしています。
「ユウロク」と読みます。
「メジカ・オジカ」ではないのです。
【麀】(鹿+匕)字を『字通』で引いて見ます。
鹿+匕(ひ)。匕は牝器の象形で牝の初文。〔説文〕に「牝鹿なり」という。鹿は古くから神鹿として、霊域で飼われた。
【麀牡】ゆうぼ めじかと、おじか 【麀鹿】ゆう(いう)ろく めじか。〔詩、大雅、霊台〕王、靈囿に在れば 麀鹿攸(ここ)に伏すとあります。メス・オスとあるかとおもっていたら、この二字「麀鹿」で、「めじか」だったのです。
牡鹿をあらわす字は別にあるのですが、石鼓文には登場しません。
つまり、
「鹿」単独でつかわれても、鹿。
「麀鹿」は「めじか、おじか」だから、こちらも鹿。
と思っていましたが、どうやら
「鹿」単独でつかわれたら、鹿。
「麀鹿」とつかわれたら、めじか。
というふうに使っている、と見るのが妥当なところのようです。
メスであることを強調するために「麀」をつけて、
「麀鹿」と表現したのですね。
ちなみに【鹿】字の「比」の部分は鹿足の形で、相比する意ではありません。
【鹿】を字通でみてみると、
[訓義]とあります。帝位にたとえる、とはものすごいことです。。詩篇には「神鹿の遊ぶことが歌われている」とのことです。遊ぶのは神のみですから、神にもたとえられる気高きいきものだったのでしょう。
1.しか。
2.帝位にたとえる。
3.禄と通じ、さいわい。
4.麓と通じ、ふもと。
【牝(メス)】と【牡(オス)】という字の右側をみてみましょう。
この「牝・牡」という字は、牛編です。
なので、もともとは牛のメスとオスをいう字です。
土(丄)のかたちは、牡器の象形、
匕のかたちは、牝器の象形です。
卜文(うらない)では、牛(うし)のほかに、羊(ひつじ)・豕(ぶた)・鹿(しか)などにもそれぞれ「匕」や「丄」をつけて、その牝牡の区別を示しています。
牝・牡の区別をつけるというのは、それが神聖なものだからです。
竜(りゅう)にも「オス」と「メス」があります。
cf. 「禹・竜・雲」
虫(き)
がオスの竜、九
がメスの竜です。
「麀」(鹿+匕)という字は、石鼓文のなかに頻繁に出てきます。
「麀」(鹿+匕)が牝鹿ということは、
「塵」(ちり)という字は「鹿+土」だから、牡鹿かな?
とおもいましたが、これは、「鹿鹿鹿土」でした。

群鹿の土埃。
鹿の群れが土ぼこりをあげて奔っている姿です。これが「塵(ちり)」。
壮大なすがたです。
こういう字があるということは、昔は鹿の群れがドドドドっと奔ってゆくことがよくあったのでしょう。すごいことです。
「塵(ちり)」というのは、小さなゴミ、などという軽い意味ではないのでした。
同じ字を三つ山のように重ねて群を表しています。
cf. 「鳥・隹(鶏・鳳・風・集・雑)」
「集」という字も、「隹隹隹木」です。
鳥(隹)があつまって木にとまっているのが「集」という字です。
ところで、「塵」は(おじか)ではありませんでしたが、牡鹿(おじか)をあらわす字ですが、じつはちゃんとあります。
【(鹿+叚)】または「麌(鹿+呉)」。
叚というのは、「又(手)をもって玉石をとり出している形」ですが、【(鹿+叚)】を引いてみると、
叚に赤の意があり、瑕・霞・蝦など、みな赤味あるものをいう。オジカ(鹿+叚)もまたその毛色を以ていうものであろう。とあります。ただしこの字は残念ながら石鼓文には出てきません。
ちなみに、
おひつじは、「羝(羊+氐)」または「羊+分」。
めひつじは、「牂(ソウ)」。
です。
牡と牝という字は、もともとは牛のオスとメスをいう字です。
なので、禽獣のオス・メスには、牡と牝という字を使います。
おうし(牡牛)
めうし(牝牛)
おひつじ(牡羊)
めひつじ(牝羊)
おすいぬ(牡犬)
めすいぬ(牝犬)
おすぶた(牡豚)
めすぶた(牝豚)
のようにつかいます。
「牝牡」は常用漢字表には入っていないので、「雌雄」の字を使うことが多いようです。(「牡」は2004年に人名用漢字に追加されました。このとき「牝」は追加されませんでした。)
「雄」と「雌」という字は、鳥(隹)のオス・メスをいう字です。
おんどり(雄鶏)
めんどり(雌鶏)
竜も雌雄をつかいます。空を舞うからでしょうか。そういえば鳳凰は鳥(隹)。その舞う「風」は「凡+虫(キ。竜のこと)」でした。
おすりゅう(雄竜)
めすりゅう(雌竜)
「雄」の左側は、「右」です。だから、草書の筆順も「右」のように「ノ」を先に書きます。
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